3・11後の自然エネルギー転換 東京新聞の記事
2011年5月4日
宇佐美 保
今朝の東京新聞に、飯田哲也氏による「3・11後の自然エネルギー転換 日本の新たな百年の計」が掲載されていましたので、ここに掲げさせて頂きます。
飯田 哲也氏(いいだ てつなり) 環境エネルギー政策研究所長
1959年生まれ。原子力関係の技術者をへて現職。
中央環境審議会、東京都環境審議会など歴任
三月十一日、M9という未曽有の巨大地震が東日本を襲った。この日は、明治維新、太平洋戦争終結に次ぐ、日本の第三の転換期として歴史に刻まれることだろう。
東日本大震災の被害は、東北から北関東まで広範囲に及ぶ甚大なもので、巨大津波でいくつもの町が丸ごと消えるなど悲惨極まりない。その復興に暗い影を落としているのが、チェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」という世界最悪級となった福島第一原発事故である。
原発震災の直接の原因は天災だが、既に指摘されていたことが現実になったもので、決して「想定外」でも「天災」でもない。外部からの指摘を無視し続けてきた当事者の東京電力はもとより、安全規制や原子力政策を所管する国も同程度に厳しくその責任を追及されるべき「人災」である。
これまで日本のエネルギー・原子力政策は、エネルギー安全保障でも温暖化対策でも明らかに失敗してきたのだが、政官業の「古い構造」のために揺るがなかった。しかし、巨大地震と津波によって、それを一気に洗い流す好機ではないか。国の安全規制やエネルギー政策や電力独占体制を、体制と内容の両方で人心を一新すべきだろう。
原子力自体は、大震災の影響を受けて、日本の電力量の二割強に落ち込んでいる。この先も、老朽化のために急速に縮小してゆくので二〇二〇年に全廃しても、電力供給の面からはほとんど問題にならない。
代わって、地域自立型の自然エネルギーを柱に据えた新しいエネルギー政策、戦略的エネルギーシフトヘの転換を図るべきだ。自然エネルギーは人類史で農業・産業・ITに次ぐ「第四の革命」と呼ばれるほどの急成長を遂げつつある。短期間で建設できるため速効性があり、地域にエネルギーと仕事と経済をもたらすことができる。
二〇年までに自然エネルギーを倍増させるドイツに倣えば、日本も電力に占める自然エネルギーの割合を現状の10%から二〇年までに30%に増やすことは十分に可能な目標である。日本でも自然エネルギーの導入可能性は膨大にある。最新の調査では、今の日本の電力量の何倍にも及ぶ自然エネルギーを現実的に導入できるという結果が得られている。
にもかかわらず日本で増えなかったのは、資源の制約でも技術が未熟だったからでもない。独占を維持したい電力会社が地域分散型自然エネルギーの増大を嫌ったこと、そして原子力と化石燃料に傾斜しすぎた政治と政策の失敗がもたらしたものだ。つまり、政治と政策を変えれば、飛躍的に拡大することができる。
これに利便性を損なわない「節電発電所」を組み合わせれば、五〇年にすべて自然エネルギーに転換することば達成可能なピジョンである。
明治維新は富国強兵に化け敗戦で崩れ、太平洋戦争敗戦は経済成長至上主義へと化け、原発震災で潰えた。今度こそ、3・11の悲惨極まりない出来事を、希望の未来へと活かすには、そうした地域と自然エネルギーを軸とする日本の新たな百年の計を立てることだ。それは国民に対する政治の責任である。
談論誘発
震災と向き合う
戦略的エネルギーシフト 電力の約3割を原子力に依存する体制から、地域分散型の自然エネルギーを中心とするエネルギー政策への転換を図るプラン。環境エネルギー政策研究所が提案。現在10%の自然エネルギーの割合を20年までに30%、50年には100%を目指し、電力安定供給・エネルギー自給・温暖化対策の柱とする。原子力は自然減と震災損傷を勘案し20年までに全廃。政府が政策的に実行することで水力、風力、太陽光、地熱、バイオマスなど自然エネルギーの技術開発や市場拡大が促進されるとする。
東京新聞(2011.4.21)の記事を補足します。
早期で低コスト再生可能エネを
米で試算
電力回復2015年まで年8370億円
米国のシンクタンク「ノーチラス研究所」は、東日本大震災で失われた電力の供給を回復するには原子力や火力の発電所を再稼働、新設するよりも、省エネや再生可能エネルギー、小規模分散型の発電を拡大する方が、供給を早期に実現できる上に、年間の費用も安く済むとの調査報告書をまとめた。
省エネや再生可能エネヘの投資は不確定要素が少なく、短時間で復旧が可能な上、二酸化炭素(CO2)の排出量も大幅に減らせるとしている。
研究所は、日本の研究成果や国際的なデータを基に東京電力と東北電力の管内に建設可能な風力、太陽光発電の投資額や設備容量、コストを試算。小型、中型の発電機や燃料電池など小規模分散型の発電設備を増やすことも加味して、地震で失われた発電能力をカバーできるかどうかを調べた。
その結果、二〇一五年三月末までにこれらの手法で発電したり節約できたりする電力量は八百九億七千四百万キロワット時。施設整備には年平均では八千三百七十億円が必要と推定された。
原発の改修や火力発電所などを建設してほぼ同量の発電をする場合は、防災対策や地域の合意取り付けなどに多大な時間を要するため、実際の発電が実現するのは大きく遅れる上、年平均のコストは八千四百七十億円とかえって高くつくという。
報告書は「省エネ効果を加えれば、原発や火力で発電するのに比べてCO2排出量を五千万トン減らすこともできる」と環境保全面での利益を強調。
再生可能エネルギーや分散型発電に適した高性能の次世代送電網(スマートグリッド)の開発など、日本の送電網の改革を復興計画の一環として進めることを提言した。
再生可能エネルギー
風力や太陽光、太陽熱などを利用してつくるエネルギーのこと。資源的にほぼ無限であることが特徴で、使えばなくなってしまう石油や石炭を使う火力発電、ウランを燃料にする原子力発電と区別して「再生可能」と呼ばれる。日本の総発電量に占める比率は1%程度だが、ドイツでは電力量の17%を供給するまでになっている。